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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2517号 判決

理由

控訴人が第一第二の手形五通を振出し、被控訴人が現にこれを所持するものであることは当事者間に争いがない。しかしてこれらの手形がいずれも支払期日に支払場所において適法に呈示せられ、その支払を拒絶せられたものであることは、《証拠》によりこれを認めることができる。

そこで、まず第一、第二の手形の振出の経緯について考察する。《証拠》を総合すると次の事実が認められ、右認定に反する控訴人本人、被控訴人本人尋問の結果は措信しない。

第一の手形三通は、控訴人が訴外宗田泰平の依頼をうけて、同人に金融を得せしめる目的で(一通は受取人を宗田とし、二通は受取人を白地として)振出したものであつて、宗田はこれらの手形を被控訴人に交付し割引いてもらつた。しかしてこれらの手形については、控訴人と宗田との間に、宗田が支払期日までに資金を調達して手形金額を支払うことの約束があつたものであるが、昭和四二年一〇月一一日宗田は右手形の支払期日までに資金調達の見込が立たなかつたところから、その旨を被控訴人に話し相談したところ、被控訴人から支払期日をおくらせた手形と書替えるよう求められたので、宗田は被控訴人の運転する自動車に同乗して控訴人方に赴き、第一の手形の書替として第二の手形の振出しをうけた。その際控訴人方においては、はじめ宗田一人が控訴人宅に入り、控訴人に手形の書替を頼んだが、控訴人が難色を示したので、宗田は表に待つていた被控訴人を控訴人宅に招き入れ、被控訴人より「第一の手形は自分が自宅に所持しているものであるから、第二の手形は自分宛に振出して欲しい。」と口添をしたため、控訴人もようやく諒承して受取人を被控訴人とする第二の手形二通を作成した。しかし、控訴人は同所で直ちにこれを被控訴人に交付せず、第一の手形と引換えに交付すべく、第二の手形をもつて被控訴人および宗田とともに一たん被控訴人方に立寄り、次いでその近くの宗田方に赴き、同所で控訴人から被控訴人に第二の手形を交付し、第一の手形の返還を求めたところ、被控訴人は「他に廻すことはしない。」とか、「破つておく。」とか言を左右にしてこれに応じなかつた。

以上の事実が認められるのであつて、これを要するに、第一の手形は宗田に対する融通手形であり、第二の手形はその書替手形なのである。

ところで、控訴人は第一の手形につき、(イ)被控訴人は融通手形であることを知つてこれを取得したもの、(ロ)被控訴人自身が本件手形による直接の被融通者であること、(ハ)被控訴人は無償で本件手形を宗田から取得したものであること、を理由にその支払を拒絶する。しかし、(イ)被控訴人が本件手形が宗田に対する融通手形であることを知つてこれを取得したものであるとしても、振出人たる控訴人は、自己が手形上の責任を負うことによつて宗田に金銭融通の途をえせしめたものであるからその支払義務を免れるものではない。(ロ)(ハ)の主張事実が認められないことは前記認定事実に照らし明らかなところである。

次に、控訴人は第二の手形につき、(イ)本件手形は第一の手形を返えすから振出してくれと被控訴人らにだまされて振出したものであるからこれを理由に本訴で取り消したこと、(ロ)本件手形について手形上の責任を負わない旨の特約が被控訴人と控訴人間になされたこと、(ハ)本件手形も融通手形であつて、被控訴人は直接の被融通者であること、を理由にその支払を拒絶する。しかし(イ)被控訴人が第二の手形と引換えに第一の手形を返却する旨約した事実はこれを認むるに足る証拠はない。前記認定のように、控訴人において第二の手形を被控訴人に交付した際第一の手形の返還を求めたことを認めうるに止る(書替手形を発行したからといつて必ずしも旧手形を返却しなければならないものではなく、旧手形債務を原因関係としてその支払のために書替手形が振出される場合もある。)から、第二の手形の振出しが、被控訴人らの欺罔によるとする控訴人の主張は採用できない。(ロ)(ハ)の主張事実が認められないことはこれまた前記認定事実に照らし明らかなところである。

ところで旧手形債務を原因関係としてその支払のために書替手形が振出された場合、所持人は新旧両手形上の権利を有することになるが、新旧債務は本来同一のものであつて、ただその支払が延期されたにすぎないものであるから、新旧いずれの手形により支払いを求める場合にも、新旧両手形と引換になすことを要する。すなわち、控訴人としては第一の手形にもとづき金一五〇万円を支払う場合は第一の手形とともに第二の手形の第二の手形にもとづき金一五〇万円を支払う場合は第二の手形とともに第一の手形の返還請求権を有するものであり、被控訴人としては第一の手形にもとづき金一五〇万円を請求するときは第一の手形とともに第二の手形の、第二の手形にもとづき金一五〇万円を請求するときは第二の手形とともに第一の手形の返還義務を負うものであつて、一を請求するときは他の請求はこれをなすことを得ないものというべきである。しかして、右各権利義務の範囲内においてそれぞれの申立にもとづき第二の手形について被控訴人の支払請求を認めた以上は右請求よりおくれて請求された第一の手形についての被控訴人の支払請求は不当となる反面、控訴人としては第二手形の返還を求めうることは当然であるから、これと同趣旨にでた原判決は相当であつて、本件控訴および附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却

(裁判長裁判官 仁分百合人 裁判官 鰍沢健三 十肥原光圀)

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